アートマネジメント講座 #009:
プロジェクトを解体する(公開トークショー)
#009
プロジェクトを解体する(公開トークショー)
2014.02.22 (sat)|平行する交差展
保坂健二朗[東京国立近代美術館主任研究員]
+向井知子[日本大学芸術学部デザイン学科准教授]+熊谷保宏[日本大学芸術学部演劇学科教授]
■レビュー
このプロジェクトは、それぞれ異なった専門領域の人々がディスカッションを重ね、そこで生まれた関係性から制作を行い、またそこに至るスタディなどのプロセスを展示として発表する。その発表場所として「劇場」という物理的空間を選定し、何ができるのか、その場所を観察、疑いながら模索している。プロセスの公開は、単なる記録だけでなく、多くの人間が関わり、お互いが理解し合うためのプロセスの可視化として、それを意図した撮影、編集、配信方法のもと行われてきた。美術館の展覧会もこのようなプロセスの公開は、重要であると保坂さんは考えている。展覧会に至るまでの膨大な蓄積したプロセスを想像しながら観覧して欲しいと望む。そして、企画側はそれを感じさせるための道しるべのような工夫が重要であるという。
この展覧会における工夫の一つは、「公開トーク」を組み込み、第三者からの意見を聞き、このプロジェクトを見つめ直す場、考え直す、認識し直す場を設けたことである。私自身、この公開トークは、専門領域の方たちがプロジェクトの内容を広げることにより、観客にとっても新しい発見や新しい見方ができるきっかけにもなるような企画であるように感じた。またプロセスの工夫は、リーフレットにも表れている。中を広げると無数の線で結ばれたダイアグラムが目に飛び込んでくる。
今までの対話の中で生まれてきたダイアログをキーワード化、プレワークショップからワークショップ、スタディを経て空間を構築、その過程の第1段階で行ったショーケースを経て今回の展示、それら4つのプロセスの軸を線として結ぶとプロジェクトが構造的に浮かびあがるのではないかと考え、制作したそうだ。出来事、対話が存在感のある重要な要素になっていることをこのリーフレットから読み取ることができるように思う。
保坂さんは、展覧会の場になった劇場は、通常の展覧会と比較すると観客が観覧する方法が異なっていることを改めて感じた部分であったそうだ。展覧会は、自分の身体を使い、作品を見るためのベストポジションを探しながら回遊する。しかし、劇場は観客席に座るとほとんど動くことがない。そこから見える光景を受け入れ、頭の中で補正している。つまり、「見る」ための振る舞い方が展示空間とは異なっているのである。
そして今回、劇場のもつ物理的空間を眺め直すためにも、「ランドスケープエリア」とよばれる平台を舞台の前に構築された。客席から舞台を見る縦の関係性と舞台を端から端まで身体的に移動して見る横の関係を取り入れたような構造だ。しかし、劇場空間のもつ特有の場所性に慣れてしまった観客に、誘導、回遊させるにはあまりにも強い構造体があった。舞台の持つ強い潜在能力に改めて考えさせられ、一方で今後も工夫のしがいがある物理的構造体なのかもしれないと思う。[須田有希子]
■講演者プロフィール
1976年茨城生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程(美学美術史学)修了後、2000年より現職。専門は近現代芸術。
企画した主な展覧会に「建築がうまれるとき ペーター・メルクリと青木淳」、「エモーショナル・ドローイング」、
「建築はどこにあるの? 7つのインスタレーション」、「Double Vision:Contemporary Art from Japan」(モスクワ近代美術館ほか)、
「フランシス・ベーコン展」など。共著に『キュレーターになりたい!アートを世に出す表現者』(フィルムアート社)、
『アール・ブリュット アート 日本』(平凡社)など。『すばる』、『朝日新聞』にて連載。