アートマネジメント講座 #010:
プロジェクトを解体する(公開トークショー)
#010
プロジェクトを解体する(公開トークショー)
2014.02.23 (sun)|平行する交差展
向井周太郎[武蔵野美術大学名誉教授]
+向井知子[日本大学芸術学部デザイン学科准教授]+熊谷保宏[日本大学芸術学部演劇学科教授]
■レビュー
本年度のプロジェクトの活動は、デザインが中心となって映像、空間演出をプロジェクトの基点としているが、各専門領域の問題に終わらすのではなく、それぞれが個々の専門家として制作してきた中で、もう一度どのようになにを作るかを改めて考え直す機会として進行している。
向井周太郎さんによれば、デザインは、専門のない専門領域であるという。何かに分けられないデザインは、生命、生存、生活など、人間の生の全体と関わっている分野であるためで ある。生を支え、形成していくためのその行為は、人間が制作していく行為とも繋がっている。そのような観点からみると、ひとりの考え方、ひとつのテーマを 設定せずに、このプロジェクトが進行してきたことの意味があるのではないかという。
タイトルである「インターセクション」を解体すると、インターは「~の間に」、セクションは、「分割されたもの」、つまり「断片と断片の間」という意味をもつ。それは専門文化分野と分野の間ともいいかえられる。横断生とは何かといえば、この間に生起するもの、この間に生成されるもの。この間を媒介するのは人間の生成装置としての身体、完成に開かれた新体感のインタラクションである。「間」は、元来「あわひ=出会う」という動詞が語源になった言葉である。様々な素材や分野があつまっているこのプロジェクトは、組織化されてないが、それらが出会い、それらのインタラクションの中にこそ創発の契機が多々生成されている。特にお互いが理解し合うために行ってきた「対話」がそれぞれの「間」を媒介する身体性の共振によってとなってつながり全体へと向い、「共演」という文化としての芸術の根元的な機能を新たな次元で捉え返す契機ともなったといえると述べられた。
この展覧会の会場となったのは、大学の劇場である。普段、当たり前に使用している場所をもう一度観察し直すために選定された発表場所である。その劇場の中で、断片と断片、場 面と空間の出会いが生成される装置として、舞台上にスクリーンを吊り、舞台の前に「ランドスケープエリア」という舞台の高さに合わせた平台を設置された。 この装置を体験した複数の観客からは、作品を見るだけでなく観客自体もどのように見ているのか、「見る」行為をもよく観察できたという声が聞かれたそうだ。
舞台は、ドイツ語で「ビューネ」という。それは、板で作った「足場」を意味し、何かを生み出す、考え方を立ち上げる行為のための足場のことを指すのだそうだ。新しい世界を立ち上がらせる意味としてもこのプロジェクトの考え方や進行は、この劇場の構成と運用(パフォーマンス)にマッチングしていたものなのかもしれないと思った。[須田有希子]
■講演者プロフィール
1932年東京生まれ。インダストリアルデザイナー。早稲田大学商学部卒業後、ドイツ・ウルム造形大学でデザインを専攻。
同大学およびハノーヴァー大学インダストリアル・デザイン研究所のフェローなどを経て、武蔵野美術大学基礎デザイン学科を設立。
新しいタイプの人材の育成とデザイン学の形成に力を注ぐ。
主著:『ふすま – 文化のランドスケープ』『生とデザイン かたちの詩学 I 』『デザインの原像 かたちの詩学II』(共に中公文庫)
『デザイン学 – 思索のコンステレーション』『向井周太郎 世界プロセスとしての身振り』(共に武蔵野美術大学)
『デザインの原点』(日本能率協会)他。