アートマネジメント講座 #008:
世界の生成 / 制作プロセスと「身振り」という概念について

Category: アートマネジメント講座

#008

世界の生成 / 制作プロセスと「身振り」という概念について

2014.02.13 (thu)

am08_mukai

講師:向井周太郎
武蔵野美術大学名誉教授

 

■講座概要

1|私は「デザインとは専門のない専門である」という見解を繰り返してきました。デザインのそのような特質は、私は一方で、哲学にも似た総合性だと思うのですが、しかし、一般的な哲学と違うのは、デザインとは制作行為であり、しかも生活世界という具体的な「生」の現実世界の形成を対象としていることです。しかも、「生」の意義をあらためて考えるならば、「生」は分割しえない全体であり、総合であり、生成のプロセスであり、星座のような複数的関係性の世界であって、そこには境界はない、という「生命」そのもの(の原理)とデザインが深くつながっているからだと思います。

2|私はデザインという行為を広く「ポイエーシス(生成/制作)」という概念で捉え直しています。しかも、「モルフォポエーシス(かたちの生成/制作)」という独自の概念を与えています。

3|そして、このポイエーシスの源泉ないし原像が「身振り」であると考えています。

4|こうした観点は制作の職能性を溶解し、広く構想力(イマジネーション)や創造力の源泉を喚起してくれます。
 

 

■レビュー

「身振り」とは、一般的には身体を動かして、感情・意思を伝えようとする動きや姿勢や行動という「身振り言語」を指しているが、根源的には、ゆり動かすことによって、生命力がめざめ、生き生きとした活力が発現されるという意味があり、自然の生成「いのちの誕生」と、人為の生成「作る」こと「かたちの誕生」の「生のリズム」、「生命リズム」ともいえる。向井周太郎さんは、この身振りという概念を、人間の振る舞いだけでなく、自然や宇宙の生成にまで拡張している。1日の太陽と月との交替や潮の満干、季節のリズムや植物のメタモルフォーゼや生物の擬態などもそうである。
自然の生態的な機能環から脱し、人間固有の文明を形成した私たちの生も、そのような自然のリズム、自然の身振りに抱かれて、はじめて生かされている。たとえば、そのことの劇的な体験は残像現象である。太陽に向かって補色残像が飛び散り、目の内側には、補足残像が流転する。人間の目は、太陽のような刺激の強い光を見ると、これは、自然との関係で、宇宙の中で動的な均衡を保っているためである。
しかも、このことが人間の美意識の生成とつながっている。20世紀の機械大量生産と結びついた職能的なデザインは終焉した。今や、こうした世界生成/生成の根厳正を捉え直し、芸術の文化的な機能を再編していく必要があると述べられていた。[須田有希子]
 

 

■講演者プロフィール

1932年東京生まれ。インダストリアルデザイナー。早稲田大学商学部卒業後、ドイツ・ウルム造形大学でデザインを専攻。

同大学およびハノーヴァー大学インダストリアル・デザイン研究所のフェローなどを経て、武蔵野美術大学基礎デザイン学科を設立。

新しいタイプの人材の育成とデザイン学の形成に力を注ぐ。

主著:『ふすま – 文化のランドスケープ』『生とデザイン かたちの詩学 I 』『デザインの原像 かたちの詩学II』(共に中公文庫)

『デザイン学 – 思索のコンステレーション』『向井周太郎 世界プロセスとしての身振り』(共に武蔵野美術大学)

『デザインの原点』(日本能率協会)他。