劇場空間を遊戯する

Category: 平行する交差展

八重樫 悠 [空間計画/ディレクターアシスタント]

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空間計画にあたって与えられた条件は、演者と同じ高さから舞台を眺めること。劇場という場そのものの使い方、使われ方を問い直すこと。二つの条件からランドスケープというキーワードが挙げられ、舞台の前に平台を設置する基本案が定まった。平台を囲むように、正方消失点のスクリーン、パース上に配置された側面スクリーン、客席の左右に吊られた縦軸スクリーン、ホワイエのパサージュ、と空間構成が決まっていった。案を具現化するにあたり、ディレクターが修学院離宮や桂離宮を見学し、イメージを練り上げ、共有していった過程がある。つまり今回の空間構成は日本家屋や庭園に見られるいくつかの特徴が意識された。
一つは場所性である。安全上の理由から断念せざるを得なかったが、舞台に上がって鑑賞する案も検討され、観客の見る場所、居る場所によって変わる景色の差を楽しみ、場所のヒエラルキーを肯定的に捉えようとしている。
二つ目は移動性である。展覧会のテーマの一つでもある回遊式という劇場動線は、観客自身に鑑賞する視点を探すことを求める。眺めるという距離は人によって違うもので、移動することによってはじめてその距離感は導かれるのではないかと考えた。
最も重要な点は、平台に象徴される、縁側のような中間領域を配置することにあったのではないかと考える。舞台と客席との間に別の領域を設けることで、客席が舞台を直視する通常の関係が崩れ、空間が段階的に演出された。平台の上は舞台と客席の両義的空間となり、その上を歩く者は観客でありながら演者の性格を合わせもつことになった。印象的だったことは、観客が平台を通過する際の風景だ。ある者はいそいそと通過し、ある者は堂々と、居座る。躊躇し、促され、恐る恐る通る者もいた。見る者が、平台によって見られる者へと変容し、見られる者には、見られる者の作法が求められた。そこにはある種の演技性があり、そのこと自体が劇場で繰り広げられる非日常性を演出していたように思われる。