映像アーカイヴから喚起する体験のパサージュ
高森奈央子[展示計画/ビジュアルファシリテーション]
ホワイエに出現するiMac約30台による光のパサージュ(道)。この展示では、それまでのインターセクションプロジェクトにおける活動が、パズルのピースのように分解され、1台1台のiMacから映像アーカイヴとして発信される。本来アーカイヴとは記録の保存、伝達としての意味合いをもつが、パサージュの空間全体を装置として機能させることによって『平行する交差展』という回遊式の展示形式を成立させる役割をも果たした。ホワイエ側のパサージュとホール内の舞台の前に設置された通路「ランドスケープエリア」、それをつなぐ階段。それらはひとつの大きな回廊となる。そこを人々が行き来し、物理的な視点を移動させることで、各自が複合的なプロジェクトの活動の様々な断片を観察し、それぞれの視点からプロジェクトの全体像をつなぎあわせていく。
アーカイヴをかねた展示の可能性を考える上で試みたもののひとつが、文字の排除である。それによって、伝える側の単なる説明としての能動的な記録の羅列ではなく、むしろ、一見受動的ともとれる展示方法を用いることで、記録映像そのもののもつ情報を見る側に体験的に読み解かせる能動性を導きだそうとした。その中で、唯一文字情報を含むものがダイアグラムとよばれるパートである。長期にわたるプロジェクトにおける人々の関わり方の変化、人々とことがらの関係を、このダイアグラムで表現し、アニメーションとして四方で流すことにより、パサージュ全体に見受けられる情報の無秩序性を包括可能にした。
もうひとつの試みは、一見ランダムに再生されているようにみえる映像を、同じ種類の統一した映像に一瞬にして切り替え、全てのiMac上でゲリラ的に流すというものである。その場の雰囲気を劇的に変え、一旦それまでの時間の流れをとめることで、観客の意識を一旦中断させ、新たに集中を促す。この展示空間はパフォーマーの舞台としての機能も兼ねていたため、パフォーマーが登場する時間帯に、それまであった空間の性質を変えるという点でも、このメソッドは効果的に作用した。
また、複雑な空間軸と時間軸をもった絵コンテを制作するにあたり、iMac1台1台を縦軸と捉え、色調または質感の統一化を図り、パサージュ全体を横軸と捉え、時系列を念頭に置いてコンテンツの配置を行った。 活動全体の密度、流れを体感させるような仕組みを構築している。