アートマネジメント講座 #005:
クリエイティブプロセスとキュレーション
#005
クリエイティブプロセスとキュレーション
2013.12.16 (mon)
講師:保坂健二朗
東京国立近代美術館主任研究員
■講座概要
「美術館」とは、誤解を恐れずに言えば、日本に独特の機関である。
本レクチャーでは、そうした場において、領域横断的な展覧会や、非物質的な作品を対象とする展覧会をキュレーションすることの意味について考える。
具体的には、講演者が企画した「建築はどこにあるの?7つのインスタレーション」展(2010年)や「フランシス・ベーコン展」(2013年)
を主な事例として取り上げつつ、適宜、国内外の主要展覧会にも言及することで、新しい展覧会を構想しうる視野の獲得を目指す。
また、昨今のアート界では、制作と運営の双方において、「ノーテーション」に対する関心の高まりが見られるが、
それについても、コレクションに携わる立場から触れることにしたい。
■レビュー
ぼ同義とし、それと美術館(art museum/museum of art)は別個の機関としているからである。しかし諸外国では、「museum」という上位概念があって、その下に、博物館や美術館などがある。
その中で保坂さんは、『建築』というジャンルを軸に数多くの展示を手掛けている。物理的な空間をもつ美術館で何ができるのか、どういうものを空間に立ち上げることができるのか、繊細に慎重に考えている。特に、キュレーターとして空間を作り込むに当たって危惧しているのは、キレイに作り過ぎることによって、作品を超えてしまうのではないかということだそうだ。だが、一方で作品を際立たせるためには作り込むことも重要であり、常にお客が全体的な体験、有機的な体験になるよう試行錯誤をしている。
「建築はどこにあるの?7つのインスタレーション」展(2010年)は、建築家の模型と図面を展示するのではなく、若手から大御所までの建築家に、インスタレーションを新たに制作してもらう企画で、その制作行為をもウェブサイト上で開示することで、建築とは何か考えさせる場とした。展示を写真撮影可能にし、来館者自身が撮りたい角度で体勢を変え、普段とは違う見方で無意識に作品と接してしまう機会を自然に作り出していた。
これらの話を聞き、空間に対する繊細な意識と人や時間、予算などの裏の調整役として全てを総合的に演出されていることに大変感心させられた。また、保坂さんが美術館は美術品を展示する空間だという認識を変えるような企画に取り組まれているように、日本における「art=美術」という認識を根底から少しずつでも変えていかなくてはならないし、artとは何か?美術とは何か?と問うよりもartや美術の領域を超えて、カテゴリー化せずに自由にものごとを捉えるようになれば、公的な場所で展示できるスペースも増えるのではないだろうかと思う。[須田有希子]
■講演者プロフィール
1976年茨城生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程(美学美術史学)修了後、2000年より現職。専門は近現代芸術。
企画した主な展覧会に「建築がうまれるとき ペーター・メルクリと青木淳」、「エモーショナル・ドローイング」、
「建築はどこにあるの? 7つのインスタレーション」、「Double Vision:Contemporary Art from Japan」(モスクワ近代美術館ほか)、
「フランシス・ベーコン展」など。共著に『キュレーターになりたい!アートを世に出す表現者』(フィルムアート社)、
『アール・ブリュット アート 日本』(平凡社)など。『すばる』、『朝日新聞』にて連載。